3月に、厚労省が行った「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業」の、調査結果報告書が公表されました。全体では100ページ超に及ぶこの報告書。すべてを読むのは時間がかかりますが、概要も活用しながら読み解いていきたいと思います。
<企業アンケート調査結果概要> から
半数以上の企業が、不妊治療を行っている従業員の把握ができていない。(n=779)
【不妊治療を行っている従業員がいる 101社(13%)】
【不妊治療を行っている従業員はいない 142社(18%)】
【過去にいたが退職した 16社( 2%)】
【わからない 521社(67%)】
*「いる」と「過去にいたが退職した」の両方にチェックした企業が1社。
779社の回答のうち、521社(67%)が「わからない」と回答しています。
「いない」という企業 142社(18%)も、実際に本当にいないのかどうかは、わからないと思います。
と言うのは、不妊治療の当事者への質問項目では、
「不妊治療をしていることを職場に伝えていますか(伝えていましたか)。または、伝える予定はありますか」
という問いに対して (n=298)、
【上司に伝えている(伝える予定) 75人(25%)】
【同僚に伝えている(伝える予定) 49人(16%)】
【職場ではオープンにしている(する予定) 22人( 7%)】
【人事に伝えている(伝える予定) 15人( 5%)】
【一切伝えていない(伝えない予定) 172人(58%)】
【その他 14人( 5%)】
となっており、58%の人が、伝えない意向だからです。
では、伝えない理由は何なのか。
「不妊治療をしているのを一部の人にしか、または一切伝えていないのは(伝えない予定なのは)、
どのような理由によりますか」
という問いには(n=276)、
【不妊治療をしていることを知られたくないから 123人(45%)】
【周囲に気遣いをしてほしくないから 105人(38%)】
【不妊治療がうなくいかなかった時に職場に居づらいから 78人(28%)】
【伝えなくても支障がないから 72人(26%)】
【周囲から理解を得られないと思うから 60人(22%)】
【その他 14人( 5%)】
という回答になっています。
このデータだけを見ると、職場の人には伝えていない人が多いし、そもそも「知られたくない」人が多いなら、従業員への支援を、と言われても困る。どうしたらいいかわからない、と思われるかもしれません。
実際、過半数を超える方が「伝えていない(伝えない予定)」、「知られたくない」「周囲に気遣いをしてほしくない」という回答だけをみると、支援策を考えること・準備することに躊躇する向きがあっても不思議ではないと思います。
しかし、ここで私が着目したのは、リプロダクティブ・ヘルス・サポートで重点を置いて考えているポイントである、
【不妊治療がうまくいかなかった時に職場に居づらいから】
という回答が78人(28%)あることです。
不妊治療は、必ずうまくいくものではありません。どんなに配慮してもらい、どんなに頑張っても、お子様を授からないまま、治療を終了しなければいけない場合もあります。そのときに、職場に居づらくなるだろう、と考えると、とても言い出しにくい。それならばいっそ、言わないほうが...、と考える。治療のその先を考えるからこその、選択だと思います。
このことと関連していると思われる回答が、
【周囲から理解を得られないと思うから】
と回答した60人(22%)です。
職場の周囲の人々がどこまで理解してくれるかわからない、という不安が垣間見えます。もしかすると、ご自身が、当事者になるまでは意識したことがなく、むしろ理解していなかった側だった場合もあるかもしれません。そうなるとなおさら、伝えることをためらってしまうことでしょう。
治療を始めると、必ずしもうまくいくとは限らない現実も知ることになります。もしもうまくいかなかったら...。周囲の方々が治療についてあまりご存じでない場合、そうした現実をわかってもらうことは難しいと思われます。
それならばいっそ、言わないほうが...となるのも、無理からぬことでしょう。
「半数以上の企業が、不妊治療を行っている従業員を把握できていない。」
ことの背景にある、
「不妊治療のその後。治療をしてもうまくいかないことがある現実。」
これを、企業の皆様がどう考えるか。ここを気兼ねして、支援を受けてもうまくいかなかったらと考えると不安で、申し訳なくて、居づらくて、と思う社員がいるかもしれない。そのために声を上げることができずにいるかもしれない。
この点を、ぜひ、このアンケートから知っていただきたいと思います。
リプロダクティブ・ヘルス・サポートでは、不妊治療のその先も見据えたサポートに、これからも取り組んでいきます。
*当事者への問いに関して、パーセンテージのトータルが100%を超えますが、複数回答可としたのではないかと思われます。